2015年12月2日(水)、第11回研修会では、「嚥下食/介護食」と言われるものについて、世の中に流布しているものをまとめて、それぞれに解説をしてもらうべく、酪農学園大学大学院の東郷将成氏に報告をお願いしました。
以下、このテーマについて、東郷氏の報告からの引用を交えながら、私なりの概説を試みます。
① まず、用語について
今回取り上げる『名称』は、以下の5つです。
★ユニバーサルデザインフード(2002年~)
★嚥下食ピラミッド(2004年~)
★えん下困難者用食品(2009年~)
★嚥下調整食分類(2013年~)
★スマイルケア食(2014年~)
これらはいずれも、「高齢者や障がい者の方にとって、食べやすい・飲み込みやすい食事」ということで提唱されたものです。そうした食品は、「嚥下食」「嚥下障害食」「嚥下調整食」「介護食」・・・等々、様々な名称でこれまで呼ばれてきています。
今回取り上げる上記の5つのものは、それらの中で、公的な性格が強く、一般的に流布している、と思われるものをピックアップした、という程度にご理解ください。順番は、提案された年代の古いものから、となっています。
今回は、「高齢者」「要介護者」のための食事・食品、として、様々な用語が提案されていますが、現場での混乱を招きかねない、ということも考慮され、それぞれの用語の使い分け/区別を試みた、ということです。
② それぞれの用語についての概説
以下、前項に挙げたそれぞれの名称について、それぞれホームページに公開している情報から、「母体団体」、「目的」、「対象とする方」、「定義」、「使用されている分野・場所」等をまとめてみました。
★ユニバーサルデザインフード(2002年)
◎母体団体
・日本介護食品協議会 / 「介護食品」製造者側の団体が、自主規格を策定するために集まって作られた団体。2000年に、設立ワーキンググループを立ち上げた際の参加企業は、伊藤ハム(株)、キユーピー(株) 、ホリカフーズ(株) 、明治乳業(株) 、和光堂(株)の5社。
ワーキンググループ~準備委員会での議論を繰り返し、最終的に、2002年に、日本介護食品協議会の設立となり、「ユニバーサルデザインフード」を提唱した。最終的な参加企業は以下の17社。
(株)葵フーズディナーズ、伊藤ハム(株)、岩手缶詰(株)、江崎グリコ(株)、亀田製菓(株)、キユーピー(株)、武田食品工業(株)、東洋製罐(株)、(株)ニチロ、日東ベスト(株)、日本ハム(株)、日本山村硝子(株)、ホリカフーズ(株)、明治乳業(株)、山一商事(株)、雪印食品(株)、和光堂(株)
◎目的
・ホームページ内では、「厚生労働省は平成6(1994)年に高齢者用食品の表示許可の取り扱いについて定めていますが、これは明らかな「病者向け」であり、加工食品業界が考える一般用食品としての「介護食品」とは考え方を隔していました。・・・(中略)・・・このような背景の中、消費者に混乱を与えないためにも、業界が主体となって自主規格を策定する必要性が急務となったのです。」と謳っており、食品製造者サイドから、消費者へ向けたものである、とされています。 (太字・下線は筆者です。以下同様)
◎対象とする方
・同じくホームページ内では、「健常者から要介護者まで、さらに、高齢者に止まらず対象者を幅広く設定した食品である。高齢者がメインターゲットであるが、口腔内を手術された方、健常であるがいわゆる「歯が浮いた」状態で固いものが食べられない時など、幅広い場面での使用が考えられる。さらに「介護食」の持っている特長から視覚障害者の食品としても適しており、いわばユニバーサルデザイン化された食品であるとも言える。」としています。
◎定義
・以下の表が出されています。
◎使用されている分野・場所
・食品業界が母体ですので、市販されている食品に、下記のような統一されたマークが入っており、消費者が購入する際の目安になるように使われています。ホームページ内では、各分類ごとにどのような製品が販売されているかが検索できるようになっています。
★嚥下食ピラミッド(2004年~)
◎母体団体
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会、という学会は、「摂食嚥下障害」について包括的に扱う学会で、本年2015年に、第21回学術集会を開いています。藤島一郎先生は、早くから摂食嚥下障害の問題に取り組んでおられ、我が国の第一人者、と言ってよい先生ですが、当時、静岡県の聖隷三方原病院におられ、当初からこの学会の主導的位置におられました。藤島先生たちの、聖隷三方原病院のチームでは、嚥下障害の方の訓練のための食事として「5段階食」というものを用いていましたが、2004年に開催された第10回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の教育講演で、同院の栄養士であった金谷節子先生が、その5段階食の進化・発展形として発表・報告したのが「嚥下食ピラミッド」です。ですから、「母体」としては、金谷節子先生(栄養士)のサイドからの提案、ということではありますが、リハビリテーションを主として行っている病院からの提案であり、摂食嚥下リハビリテーション学会で取り上げられた、いわば、「摂食嚥下障害者に対する、医療サイドからの提案」という意味合いの強いものです。
◎目的
・上記の通り、そもそもが専門学会で提唱されたものであり、例えば脳卒中の患者では、発症後しばらくの間は経口からの食事はとらず、症状の安定を確認し、「レベル0(開始食)」から始めて「レベル1(嚥下食Ⅰ)」、「レベル2(嚥下食Ⅱ)」と嚥下が難しい食事へと移行し、最終的には普通食へ移行していくことを想定していたものです。 しかし、特に「病者」ということでなく、一般の高齢者を想定した場合には、咀嚼能力の低下に応じて「レベル5(普通食)」から「レベル4(介護食)」、「レベル3(嚥下食)」へと咀嚼や嚥下が容易な食品に移行していくことも考えられるようになっていきました。
目的、ということを強調するなら、栄養士からの提案であり、「各レベルごとの食物形態の物性条件を基準化することで、品質管理を行う」ということが挙げられるでしょう。
◎対象とする方
・前項とも重なりますが、最終的な対象者は、そもそもは入院中の「病者」を想定し、絶食段階から少しずつレベルアップしていくことを考慮していたものと思われます。しかし、この分類自体を目にするのが誰か、という意味で言えば、「医療従事者」「栄養士」、等、要治療者に対して、食事を「処方」する側を対象としている専門職、ということになるでしょう。
◎定義
◎使用されている分野・場所
・もともとが学会で提出されたものですので、「摂食嚥下障害」に取り組んでいる病院の現場を中心にして広がっていったものです。
★えん下困難者用食品(2009年~)
◎母体団体
・厚生労働省が母体です。もともとは、2002年の「健康増進法」という法律によって、「特別用途食品」というものが定められており、「販売に供する食品につき、乳児用、幼児用、妊産婦用、病者用等の特別の用途に適する旨の表示をしようとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」となっていました。その後、高齢化の進展等に伴い、2009年から、「えん下困難者用」という基準を新たに設け、食品にその表示を用いる際の、審査・許可・承認を与える、という立場から提唱されたものです。その後、消費者庁が新設されたため、審査・許可・承認は現在は消費者庁が母体となって行われています。
◎目的
・ここでは、2009年2月に、厚生労働省医薬食品局食品安全部長名義で、各都道府県知事/保健所設置市長/特別区長、宛に出された通達よりそのまま引用します。
① 特別用途食品は、通常の食品では対応が困難な特別の用途を表示する機能を果たして おり、対象となる者に十分認知されれば、適切な食品選択を支援する有力な手段として 期待できるものであること。
② 今後、我が国で高齢化がますます進行することから、在宅療養における適切な栄養管理を持続できる体制づくりが求められているところであり、特別用途食品は、そのよう な社会状況の変化に対応して新たなニーズに的確に対応できるものでなければならない こと。
③ その許可の対象となる食品の範囲を重点化することで認知度を高め、当該食品の供給 の円滑化に繋げることが期待されること。
④ 必要な情報提供の促進や新の医学的、栄養学的知見に基づいて適正な審査を経た食品供給がなされるといった基盤整備を図ることも不可欠な取組であること。
◎定義
・同じく、既に挙げた通達より引用します。
(1) 基本的許可基準 ア 医学的、栄養学的見地から見てえん下困難者が摂取するのに適した食品である こと。
イ えん下困難者により摂取されている実績があること。
ウ 特別の用途を示す表示が、えん下困難者用の食品としてふさわしいものであること。
エ 使用方法が簡明であること。
オ 品質が通常の食品に劣らないものであること。
カ 適正な試験法によって成分又は特性が確認されるものであること。
(2) 規格基準 下表に示す規格を満たすものとする。なお、簡易な調理を要するものにあっては、その指示どおりに調理した後の状態で当該規格を満たせばよいものとする。
◎対象とする方
・短絡的には、「国」が、「食品製造業者」を対象として許可・承認を与える、という性質のものですが、最終的なターゲットはもちろん、その製品を購入する消費者、ということにはなります。
消費者庁は、ホームページ内で、「特別用途食品とは、乳児、幼児、妊産婦、病者などの発育、健康の保持・回復などに適するという特別の用途について表示するものです。特別用途食品として食品を販売するには、その表示について国の許可を受ける必要があります。 特別用途食品には、病者用食品、妊産婦・授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳及びえん下困難者用食品があります。」と謳っており、乳児、幼児、妊産婦、病者を対象としている、ということになっています。
◎使用されている分野・場所
・食品製造業者が、消費者庁に対して申請をして、許可された場合に、左記のようなマークを製品につけることが承認されます。その他、表示内容についても許可・承認がなされます。【例】ニュートリー株式会社の「プロッカ」という製品では、「本品は、えん下困難者に適したゼリー食品です。」という表示をすることが許可された旨、ホームページ上でも公開されています。
★嚥下調整食分類(学会分類2013)(2013年~)
◎母体団体
・既に、嚥下食ピラミッド、の項でも挙げました、「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会」の中で、嚥下調整食特別委員会、なる特別部会を設けて検討を続け、2013年に発表されたものです。学会として、学術的に微に入り細に入り検討をされた上で、学会誌やホームページ上に公開されているものですので、以下、基本的にそこから引用します。
◎目的・学会誌より引用です。 「本邦においては従来、米国の National Dysphagia Diet(2002)のような統一された嚥下調整食の段階が存在せず、地域や施設ごとに多くの名称や段階が混在している.急性期病院から回復期病院、あるいは病院から施設・在宅およびその逆などの連携が普及している今日、統一基準や統一名称がないことは、摂食・嚥下障害者および関係者の不利益となっている。また、診療報酬収載が遅れていることについても、コンセンサスを得た分類がないことが要因のひとつとなっていることは否めない。そこで、この学会分類 2013 は、国内の病院・施設・在宅医療および福祉関係者が共通して使用できることを目的とし、食事(嚥下調整食)およびとろみについて、段階分類を示した。」
◎定義
・詳細は、是非原典を当たってください。ここでは、インターネット上簡便に入手できた部分のみを一部掲載しておきます。
◎対象とする方
・嚥下食ピラミッド、の場合と同様、この分類自体を目にするのが誰か、という意味で言えば、「医療従事者」「栄養士」、等、要治療者に対して、食事を「処方」する側を対象としている、ということになると思われます。
最終的な対象者ということになると、嚥下食ピラミッドの場合には、そもそもは入院中の「病者」を想定していたものと思われますが、時代は変わって、「急性期病院から回復期病院、あるいは病院から施設・在宅」等、様々な現場におられるであろう、「嚥下障害者」を対象としており、より広がった、と考えられます。
◎使用されている分野・場所
・これも、嚥下食ピラミッドと同様、「一般市民」の方々が目にする機会は少ないのではないでしょうか。まさに、「摂食嚥下リハビリテーション学会」の会員である、医療・介護分野の現場で、食事に関わる専門職(医師・看護職・歯科医師・歯科衛生士・栄養士・ST・・・・・・)の方々が使用しているものと思われます。
★スマイルケア食(2014年~)
◎母体団体
・農林水産省が母体となって、「新しい介護食品」を提唱し、その愛称について一般公募を行い、2014年、「スマイルケア食」の名称が決まっています。
◎目的
・なかなか簡単にまとめることが難しいのですが・・・、農水省のホームページ他を総括してみると、以下のようになるかと思います。
・高齢者が増えてきたわが国では、いわゆる「介護食」についての定義が明確ではないため、その定義を明確にし、市販されている介護食品の位置づけを明確化し、国民に周知していくことが必要である。
・噛む・飲み込むことが難しい方向けの食品だけでなく、低栄養の予防につながる食品、生活をより快適にする食品、という広い領域としてとらえる。
◎定義
・詳細は、農水省のホームページをご参照ください。・・・最新の分類だけあって、今までにあった、既に述べてきた「嚥下調整食分類(学会分類2013)」や、「ユニバーサルデザインフード」、「嚥下食ピラミッド」との互換性についても明記されており、ということは、定義/分類方法そのものは、既存のものと特別には変わりない、ということでもあります。
◎対象とする方
・これも、ホームページ上で明確にしていますので引用します。
「原則、在宅の高齢者や障がい者の方であって、 ○食機能(噛むこと、飲み込むこと)に問題があることから栄養状態が不良 ○食機能に問題があるが、本人または介護を行っている方の食内容や食形態の工夫により栄養状態は良好 ○食機能に門医大はないが、栄養状態が不良 +上記に移行する恐れのある人」
◎使用されている分野・場所
・左のようなロゴマークを、農水省の商標として出していますが、これもホームページによれば、「このロゴマークは、「新しい介護食品」スマイルケア食を広く国民の皆様に知っていただき、身近に感じていただくために作成いたしました。ロゴマークは、スマイルケア食全体を普及する目的で御活用下さい。(個別商品のパッケージ等には利用できませんので、御注意ください。)」となっており、現段階(2015年12月)では、個別商品について、「スマイルケア食」が表示されたりしていることはないようです。
例えば、2015年3月の時点で、農水省後援で、「介護食品(スマイルケア食)コンクール」というものを開催して、既存の商品に対して応募を募って、151点の応募の中から、「農林水産大臣賞1点、農林水産省食料産業局長賞4点、審査員長賞5点、審査委員特別賞9点」などを選出しています。
農林水産大臣賞は、フジッコの、「ソフトデリ やさい豆」という商品が受賞したことになっていますが、現在のところ、フジッコのホームページを見ても、受賞についてのニュースは出ていますが、このロゴマークや、上記の、A・B・C・D、といった分類の表示も全く掲載はされていません。
これらのロゴマークや、分類表示に使用方法については、農水省のホームページを見ても、「現在検討中です。」とのみなっており、実用段階にはなっていないようです。
③ 違いを明確に
・以上のようにずらずらと並べてはみても、なかなかそれぞれの「違い」は理解しにくいかもしれません。食品を「分類」する、ということに力点を置けば、おそらくは嚥下調整食分類(学会分類2013)が最も細かいものであり、他の分類はすべてこの嚥下調整食分類のどこかに位置付けられはするものと思います。 結局、それぞれの違いは、分類それ自体よりも、母体・目的・対象者・使用場所、等の方に主としてあるのだ、と思われます。以下、私見ではありますが、それぞれの「違う点」をはっきりさせながら、ランダムに箇条書きにまとめてみようと思います。
(1)「嚥下食ピラミッド」、と、「嚥下調整食分類(学会分類2013)」は、いずれも、基本的には摂食嚥下リハビリテーション学会を母体としており、一般消費者を対象としたものというよりは、「摂食嚥下障害」に関する専門職を対象としている、という点で、他の分類とは明らかに異なります。出来合いの商品に対するものではなく、病院での治療食を念頭に置いている分類ですから、摂食嚥下障害の診断治療を行っている医師や言語聴覚士などが、これを基準にして食事の処方を行い、栄養士さんや調理師さんが、これを基準にして患者食を作る、ということですね。
さらに言えば、両者は、異なる概念で作られたものではありますが、内容的には、明らかに、「嚥下調整食分類(学会分類)」は「嚥下食ピラミッド」を発展、さらに細かくしたものであり、これから勉強をする者にとっては、「嚥下調整食分類(学会分類)」を使用すれば足りる、と考えてよいのではないでしょうか。
私自身、長らく「嚥下食ピラミッド」を参照してきて、大いにお世話になったものですが、両者の間には10年の隔たりがあり、この間、市販の新商品も多数作られ、また、嚥下障害についての考え方・対応にも進歩があり、専門職の間では、今後「嚥下調整食分類(学会分類)」が基準となっていく、ということで、「嚥下食ピラミッド」には、ご苦労様でした、という思いです。
しかし、「嚥下食ピラミッド」の方が、「嚥下調整食分類(学会分類)」よりは(当然ながら)分類がシンプルで分かりやすい、というようなことで、むしろ、一般の方向けの講習会などで使われていくことがあっても、もちろんそれは良いことだと思います。
(2)「ユニバーサルデザインフード」、「えん下困難者用食品」、「スマイルケア食」の3つについては、いずれも、市販されている食品を、消費者が選びやすいように、ということに力点を置いている、という点で、(1)の2つとは異なります。
母体の差を言えば、「ユニバーサルデザインフード」は、食品製造業者たちによる自主規格であり、「えん下困難者用食品」は厚労省/「スマイルケア食」は農水省、といずれも省庁が主体となって、まあ言えば食品製造業者に『許可』を与える、といった性格になりますので、当然のことながら両者の間では何かトラブルがありそうなものです。
この間の経緯については、ユニバーサルデザインフードのホームページに、以下のような記述があります。
「平成16(2004)年6月、厚生労働省より、ユニバーサルデザインフードが、国が許可している『特別用途食品 高齢者用食品』の基準に抵触する可能性がある旨の指摘を受け、ユニバーサルデザインフードと特別用途食品の関係等について数度協議を行った経緯がある。
・・・・・・(中略)・・・・・・
本食品群は、以下の理由から健康増進法第26条に規定する『特別用途食品』に該当しないものであると解釈している。
•自主規格において物性値のみを規定しており、栄養学的な特別な配慮を規定していないこと。
•高齢者専用ではなく、一般用食品として販売していること。
•製品への表示は食品のかたさ等に関する内容について平易な表現を用いて表示しており、高齢者の用に適する旨を医学的、栄養学的表現で記載していないこと。
なお、本食品群の販売等にあっては、製品等に対し下記の表現を行わないよう、会員企業に対し指導徹底を行う。
•咀嚼・嚥下困難者用食品である旨の表現
•特別用途食品(高齢者用食品)と同様の特性を持っている旨の表現
•特別用途食品として厚生労働省の許可を受けていると誤認させる表現」
・・・ということで、シンプルに書けば、
・ユニバーサルデザインフードは一般用食品、えん下困難者用食品は「病者」「障がい者」に対する特殊な食品。
・ユニバーサルデザインフードは一般向けに平易な表現で記載、えん下困難者用食品は医学的・栄養学的な基準を用いている。
ということで、ユニバーサルデザインフード側から距離を置いた形になっています。
確かに、ユニバーサルデザインフードが主として分類の基準に用いているのは、「かたさ/やわらかさ」であり、古典的な意味での「嚥下障害」というよりは、高齢になって歯が弱くなって「咀嚼が難しい」方向け、ということに力点を置いている、という点でも、「嚥下困難者用食品」とは一線を画しています。
(3)さて、「えん下困難者用食品」と「スマイルケア食」の比較、ですが、厚労省と農水省、一般市民から見れば、また縦割りのお役所がそれぞれ勝手なことを・・・という風に見えてしまいます。しかし、厚生労働省、と、農林水産省、という両者の性格の違いを考えてみても、(2)の議論と同様、 ・えん下困難者用食品は「病者」「障がい者」に対する特殊な食品、スマイルケア食は「在宅高齢者・障がい者」と、より一般的であり、また、
・スマイルケア食は、近年「フレイル」、「サルコペニア」、「ロコモティブシンドローム」等(これらについては、別項『サルコペニア徹底追及』もご参照ください)にても提唱されている、高齢者の「低栄養」という問題にも初めて踏み込んだ、という点では、他の分類とは一線を画していると言っていいかと思います。
④ まとめ
私個人は、医者としては、もともと狭義の「嚥下障害」=飲み込みがうまくいかない、という問題から、特に高齢者の食事の問題に入ったのですが、時代は移って、高齢者(/障がい者・要介護者)の食の全体を考える場合に考えるべき問題が増えてきています。
(A)狭義の嚥下障害=飲み込みが難しい/医科領域
+
(B)噛むことが難しい=咀嚼の問題/歯科領域
+
(C)環境の問題
(食べる時の姿勢、食器、食具、食環境、さらには「おいしそうな食事」かどうか、といった、料理・食品そのものの問題)
+
(D)栄養「量」や「質」の問題=フレイル・サルコペニア等々
こうした進展は、時代的、歴史的な経過である、ということもまた確かなことであって、こうした視点からみると、今回採り上げた5つの分類は
それぞれ、
★ユニバーサルデザインフード(2002年~) → 主に(B)に力点を置いている
★嚥下食ピラミッド(2004年~) → 主に(A)に力点を置いている
★えん下困難者用食品(2009年~) → 主に(A)(+(B))に力点を置いている
★嚥下調整食分類(2013年~) → 主に(A)・(B)に力点を置いている
★スマイルケア食(2014年~) → 主に(A)・(B)・(D)(+(C))に力点を置いている
というように、時代の変遷を表すものだ、というようにもとらえられます(実際には、(C)の食環境の問題、というのは、食品の問題だけでは解決できないものですが)。
まとめます。現状においては、
◎病院で勤務して、「病者」を対象としている専門職としては、嚥下調整食分類(学会分類)の理解・勉強が必要であり、今後も改訂の可能性もあり、動向を把握しておく必要があるだろう。
◎一般消費者が、食品を購入する場合に参照するものとしては、既に周知されて信頼のおけるものとして、ユニバーサルデザインフードは参考にできる。
◎スマイルケア食は、後発・最新の成果として、その他の分類との互換性もあり、農水省もかなりお金をかけて力を入れているので、今後様々な商品への表示が進んでいく可能性があるが、2015年12月現在、まだその動向は不明である。
◎えん下困難者用食品、は、一般消費者向けの表示、という観点からすれば、ユニバーサルデザインフード・スマイルケア食、に吸収されていく、と予想される(失礼!)。
Comments