• 皆川夏樹

「摂食嚥下障害の訓練について」 報告と雑感

(室蘭登別食介護研究会 第4回研修会 (2014.5.28))

2014年5月28日(水)、第4回研修会では、摂食嚥下障害に対する「訓練」について、皆川・言語聴覚士(ST)からの発表・症例報告を行いました。

摂食嚥下障害に対する「訓練」は、リハビリテーションの現場では、主に言語聴覚士(ST)が担うものとされています。STが身につけている、あるいは知っている訓練方法にはさまざまなものがありますが、これらの訓練方法が、摂食嚥下障害に対して本当に「有効」であるのかどうか、は、実はなかなか判断が難しいとも言われます。

実は、こうした「訓練の有効性」に対する疑問というのは、リハビリテーション全般につきものではあります。

野球部に入って、同じ練習をしていても、上手になる子もいればレギュラーになれない子もいます。家に帰ってからも努力して上手になる子もいれば、ぜんぜん練習しなくても上手な子もいます。あるいはまた、Aチームではレギュラーになれなかった子が、Bチームに移ったらレギュラーになる、ということもあります。基本的な練習内容が同じだったとしても、微妙なレベルで、Bチームの練習の方が、その子に「合っていた」ということもあるかもしれませんし、あるいはまた、Bチームのコーチの方が教え方が上手だった、のかもしれません。あるいは単に、Bチームに足りない部分に、その子がぴったりはまってしまっただけかもしれません。

「練習/訓練」と、その成果、を関連付けようとしても、そもそも違う条件の個体に対して、異なる施設で行われた訓練の成果、を比べることは甚だ難しいわけです。

「脳卒中治療ガイドライン」というものがあります。日本脳卒中学会が、少なくとも日本国内での脳卒中の治療について、統一見解として出しているもので、今のところ2009年版が最新のものですが、その中で、嚥下障害に対するリハビリテーションについて次のように記されています。

「頸部前屈や回旋、咽頭冷却刺激、メンデルゾーン手技、supraglottic swallow(息こらえ嚥下)、頸部前屈体操、バルーン拡張法などの間接訓練は、検査所見や食事摂取量の改善などが認められ、実施が勧められる(グレードB)。」

ここで、グレードBというのは、「よくデザインされた研究が背景としてあり、行うよう勧められる」という、かなり高い「推奨のレベル」である、ということを示しています(因みに、このグレードは、A:行うよう強く勧められる/B:行うよう勧められる/C1:行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠がない/C2:科学的根拠がないので、勧められない/D:行わないよう勧められる、の5段階になっています)。

しかし、さらにその詳しい個々の解説を引用してみると、

メンデルゾーン手技により、嚥下造影上、食道入口部の開大が認められ、表面筋電図を用いたバイオフィードバックとの併用での訓練で食事摂取量の増加などの効果を認めている。

Supraglottic swallow(息こらえ嚥下)も、嚥下内視鏡検査で声門閉鎖、嚥下パターンの変化が示されている。

脳卒中患者を含む対象患者で、頸部前屈体操(Shaker体操)により食道入口部開大・食物の通過に有効であったという報告がある。

咽頭冷却刺激は、短期的には嚥下造影検査上の咽頭通過時間の短縮などの効果が認められた症例もあったが、造影検査上の誤嚥の頻度は変わらず、また長期的な効果は認められず、有効性は示されていない。

頸部表面からの咽喉頭筋電気刺激は、咽頭冷却刺激との比較試験で、嚥下機能の改善効果が有意に高かったとの報告がある。」

と書かれており、幾つかの疑問が湧きます。

・ ガイドラインでは、色々な訓練を一括して「推奨」となっているが、詳しく見ると、それぞれの訓練についてはどうも温度差がありそうだ。

・ メンデルゾーン手技では、「効果を認めている」だが、頸部前屈体操では、「という報告がある」、になっているぞ。

・ 咽頭冷却刺激にいたっては、「造影検査上の誤嚥の頻度は変わらず」、「有効性は示されていない」で結んでいるぞ。

・ 上には載っていなかったが、頸部表面からの咽喉頭筋電気刺激、なんてものも解説には書かれているぞ。

 どうやら、個々の訓練については様々な評価があるもののそれは解説に譲り、総論的に、「嚥下障害に対して訓練を行うことは望ましい」ということを言ってくれているらしい。ガイドライン、としては、肯けるところではあります。

 ここに挙げたのは、あくまで「脳卒中」に対しての治療ガイドライン、であり、広く「食べられない」方が、全て脳卒中である、とは限りません。しかし、脳卒中のあとに障害として「食べられない」という問題が多くでてくることも事実ですし、多くの病院の「摂食嚥下リハビリテーション」で、脳卒中患者に取り組んでいることも確かなことです。また逆に、この「脳卒中治療ガイドライン」において、リハビリテーションの効果が認められ、こうして「推奨」されるようになった、ということは、医学界の中でも決して小さくないインパクトを与えた事件でした。

 そこで、今回の我々の研修会では、この脳卒中治療ガイドラインで採り上げられた訓練の中から、代表的なものをピックアップして、さらにつっこんで調べてみることとしました。

① アイスマッサージ(咽頭冷却刺激)

② 頸部前屈体操(Shaker体操)

③ バルーン拡張法

④ 頸部表面からの咽喉頭筋電気刺激

⑤ 食前体操

⑥ まとめ~「訓練」について

アイスマッサージ(咽頭冷却刺激)

 アイスマッサージは、嚥下障害に対する訓練としては、ごく早期から行われてきたものです。今回私も、インターネット上で「アイスマッサージ」をざっと検索してみましたが、非常に多く採り上げられていて、また、多くの施設や病院で行われていることが伺われました。しかし、上述のように、「脳卒中ガイドライン」の中でも、その有効性については、かなり留保した記載の仕方になっています。実際、私自身も15年以上前から患者さんに対して行っていましたが、その方法や理屈には、近年疑問を抱くようになりました。

★アイスマッサージの方法

 まず、その具体的な方法を以下に示します。あくまで、一般的に教科書等に示されているやり方、とご理解下さい。



「水に浸し凍らせた綿棒で、嚥下誘発部位(口蓋弓・咽頭後壁)~奥舌や舌根部に圧をかけながら撫でて、嚥下反射を起こさせる」

その効果・理屈、としては、「口腔内のマッサージ効果により、嚥下反射を誘発する/嚥下反射が起きるまでの、時間を短縮させる」などと一般的に言われます。

 一般に、「アイスマッサージ」といった場合には、上に挙げたような方法と共に、体表面から、頸部~頬部を、冷やしたもの(アイスノンのようなもの)で刺激する方法も挙げられることが多いのですが、今のところは、上の方法に限定してお話を進めます。

★アイスマッサージに対する疑問

(1)「反射」を促す、ということについて

 アイスマッサージに対する疑問の第1点として、咽頭等を冷却刺激すると、「反射」がよくなる、というその解説そのものが挙げられます。

 普通、「反射」というのは、生命維持に直結したような大切な刺激に対して、大脳を介さずに、脊髄~脳幹で直接に反応を起こすような、要は、スピードを重視したような反応のことを言います。

例えば代表的なものとしては、マッチの火を腕に近づけるなど、をすると、その「熱い」刺激は、最終的には大脳まで届いて「熱い」という言葉となって、あるいは、「熱い」という感覚として記憶され、その後の行動を促すなどすることになりますが、実際に腕を動かして火をよける、という動作は、そのずっと前に、脊髄ですぐに運動神経に直結して起こります。我々は、「熱い」と思う・考える前に、既に腕をよけているのです。そうしないと火傷をしますし、生命に危険が及ぶこともある、というわけです。

 嚥下反射、も、同様に、本来は、咽頭周辺に「食べ物」などが到達した際に、即反応して「ごっくん」という動きが起こるはずのものです。

 しかし、このアイスマッサージという訓練では、口を大きく開けてもらって、喉の奥の、嚥下反射を誘発する、とされる部位を、冷たい棒でこするわけですが、こすっても、普通はその口を開けてもらったままの状態で嚥下反射は起きません。こすって刺激した後に、口を閉じて、「ごっくんして下さい」と本人を促してからやっと、嚥下反射が起こる、という訓練です。すなわち、刺激をしてから少なくとも数秒も経ってから、嚥下が起こっているのです。・・・これは、普通に観察をすれば、冷却刺激によって起こっている反射、とは思えません。冷却刺激ののち口を閉じて、唾液を集めるなどした上で、嚥下が起こっている、と考える方が妥当です。

 一例を挙げると、「アイスマッサージによる嚥下反射惹起の促通効果:The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine:Vol.45,No.5,308308,2008/5」」という研究では、次のように報告されています。

<対象者>2007年6月~9月に嚥下造影をした50例。

<方法>アイスマッサージ後、またはせずに、空嚥下の指示から嚥下反射の惹起までの時間を測定した。測定時間は10秒まで、それ以上は嚥下の可否のみ記録した。各々2回ずつ5パターン施行した。

<結果>嚥下反射が4回惹起されたとき、アイスマッサージ後で惹起までの平均時間が優位に短縮した(有1.57±0.901秒、無2.11±1.34秒、p=0.0447)。嚥下反射が4回は惹起されなかった時、アイスマッサージ後で惹起した回数が優位に多かった(有0.941±0.899回、無0.529±0.624回、p=0.0486)。

<考察>のどのアイスマッサージが嚥下反射を惹起する時間を短縮し、非施行時に嚥下反射が惹起しない時はこれを惹起させうることを示した。

 この研究を読むと、あくまで「冷却刺激」そのものによって嚥下反射が即起こることを期待しているのではなく、冷却刺激をしたあとに空嚥下を指示すると、その時間が短縮したり、回数が多くなる、ということについて示しています。

この点は誤解されやすいところだと思いますので再度強調しておきたいと思います。

「嚥下反射が起きるまでの時間が短縮する」ということの意味は、普通に文章通り解釈すれば、「反射の引き金となる、『嚥下反射誘発部位』に刺激を与えてから、嚥下反射が実際に起きるまでの時間」が短縮する、と受け取れそうですが、こうした研究では、「アイスマッサージをおこなったあと(しばらくして)、嚥下を指示してから嚥下が起こるまでの時間」を測定しているのです。

私たちは、「から嚥下」を指示された場合、何もない状態で、「ごっくん」と飲み込むことはできません。

どうするか。

皆さんそれぞれにやってみてください。

普通は、「ごっくんしてみてください」と言われれば、一所懸命唾液を集めてのどの奥の方に運んでいく。そうして、嚥下反射誘発部位に唾液が当たったときに、嚥下が起こるのです。唾液を集めたりすることなしに、嚥下を単独で起こすことはできません。

すなわち言い換えれば、上の研究では、「アイスマッサージによって、唾液をかき集める時間の短縮が起こった」ということは言えるかもしれませんが、普通の解釈として、「嚥下反射を誘発する/嚥下反射が起きるまでの、時間を短縮させる」とは言い難いのではないでしょうか。

極論すれば、アイスマッサージをしようがしまいが、少量のゼリーでも(水分でも何でもいいですが)口の中に入れてあげれば、「嚥下反射を誘発する」ことはできます。

 というわけで、私自身は、アイスマッサージをするくらいであれば、慎重に、ゼリーなどで直接訓練(実際に食物や水分を嚥下することによって訓練とする)を行う方が、有意であろう、と考えてしまいます。

 もちろん、いかなる状況においても、「刺激をする」ということ自体は即「悪い」ことである、とは言い難いものです。リハビリテーションの現場では、なるべく「入力刺激」を多くすることを尊ぶものです。この訓練方法でも、確かに、(絶食状態が続く/発声もあまりすることがない/唾液分泌も少なくなっている/などの理由で)嚥下を行う機会そのものが少なくなっている高齢者や障害者に対して、嚥下反射誘発部位に刺激を与える機会を増やすこと自体に意味がないとは言えません。さらに、その刺激のあとで、実際に嚥下を促しているわけですから、「嚥下」を行う機会を増やすこと自体は、訓練としていけないこととは言えません。しかし、これまで説明をされてきたように、冷却刺激そのものが、嚥下反射を誘発しやすくする、という説明は、一考の余地があると思われます。

 さらに、この訓練では、凍らせたアイス棒で咽頭を刺激することによって、その氷が一部溶けて液体となって、それが、そののちの嚥下につながる、という可能性も指摘されています。この場合、とろみをつけていない水分がそのまま嚥下されることについては、危険を伴うような場合もありえる、と言われています。

(2)嚥下反射誘発部位、で、嚥下が誘発されないケース

 嚥下造影の検査を長らく行っていると、非常に多くの高齢者で、上に述べたような「嚥下反射誘発部位」では、嚥下反射が起こっていないケースに巡り合います。頻繁に。

というのは、喉頭蓋谷や、梨状陥凹にまで食物が落ちていって、そこで保持されたのちしばらく経ってから嚥下が起こる、というパターンです。これは、若い方ではなかなかお目にかかれないパターンなのですが、こうした嚥下の仕方でも、普段は特に問題なく食事をされている方が、どうもたくさんいるようなのです。



 私たちは、普段は「嚥下障害」を疑われる方ばかりでこうした検査を行ってきましたので、具体的にこうした、やや特殊(と思われるよう)なパターンで嚥下を行っている方が、どのくらいの年齢で、どのくらいおられるのか、はわかりません。今後、普通に食事を行っている方で、こうした調査をしてみたいものだと思いますが、現時点では確実なことは言えません。しかし、現実に、このような嚥下パターンで食事をしている方は思ったより多くおられます。

 すると、既にこうした嚥下パターンでの食事が完成している高齢の方について、いわゆる「嚥下反射誘発部位」に対するアイスマッサージが、どれほど有効か、ということも、あらためて疑問です。

★まとめ

 というわけで、現在私自身は、アイスマッサージをほとんど行うことがなくなっています。今回我々の研修会に参加してくださった方々にも尋ねてみましたが、STとして行っている方はごく少数で、入院患者さんに対して、病棟単位で看護師さんたちが行っているところの方がむしろ多いようでした。STの間でも、アイスマッサージに対する疑問が広がっているのかもしれません。

 今のところ、ここで、アイスマッサージの有効性についての結論は出せませんが、15-20年と比べれば、以下にお示しするような他の訓練方法も一般的になっており、相対的な意味でも、その準備の手間や効率などと併せて、アイスマッサージの「重要性」は下がっている印象ではあります。

② 頸部前屈体操(Shaker体操)

 頸部前屈体操は、1990年代からその効果を報告したShakerの名をとって、Shaker体操(シャキア体操)と言われることが多い訓練方法です。その目的は、他の訓練に比して、明確といえるかもしれません。

★シャキア体操の方法

Shakerが提唱した「原法」は、かなり大変です。



1) 挙上位の保持

 両肩をつけたまま、つま先を見るように頸部を上げる→「1分保持 1分休憩」×3回

2) 反復挙上運動

 仰臥位で頭部の上げ下げを、30 回連続して繰り返す。

喉頭挙上に関わる筋を強化し、喉頭の運動を改善し、食道入口部の開大をはかり、食物の通過不全や咽頭残留を軽減させる。

 実際には、健康な状態でもこれらの訓練をそのとおり行うことはかなりつらいです(ぜひ試してみてください)。病院の現場などでは、回数や時間をかなり減らしたり調整する、というところがほとんどでした。また、認知症の方などで、指示に従えない場合も多く、何か興味を引くものを提示して首を挙げさせる、などの工夫をしているようです。

★シャキア体操の目的

 シャキア体操は、右図に示すような、嚥下に関わる諸筋肉(舌骨上筋群・舌骨下筋群、と総称されます)に対する筋力トレーニング、といった意味合いを持ちます。

 これらの筋は、嚥下が実際に起こる際の、いわゆる「喉頭挙上」や、「食道入口部の開大」に直接関わる、とされ、頸部前屈運動によって、これら「喉頭挙上」、「食道入口部の開大」の改善が報告されています。



③ バルーン拡張法

 バルーン拡張法、は、訓練、というよりは、治療、といった方がよいかもしれません。この項で紹介している他の方法に比べれば、なかなか独力、や、施設などで行うことは難しく、少なくとも最初は医者などが関わる必要が高い方法です。

 我々が物を飲み込む(嚥下する)ときには、食道が開いて、胃までの道が通じていることが必要です。

 裏を返せば、実は、我々の体は、「飲み込む」時以外には食道の入口は開いていません。飲み込まないとき、呼吸をしているとき、には、「のど」から先は気管~肺へ通じる道が開いているだけで、食道の入口はほぼぴったりと閉じているのです。その食道の入口が、「ごっくん」と飲み込む一瞬だけ、大きく開くように、上手に調整されています。

 ところが、嚥下障害の方の中には、外見的には「ごっくん」と大きく飲み込んでいるように見えても、実はこの食道の入口がまったく(あるいは少ししか)開かないため、飲み込んだように見えても、食物が皆(ほとんど)、のどに溜まったままになっている、というタイプの方がいます。

 バルーン拡張法、では、この開きの悪い食道の入口まで、バルーン(風船)のついた管を入れてやって、狭くなったところでバルーンを膨らますことによって、開かなくなっている部位を機械的に広げてやろう、という方法です。

食道の入り口はまったく開かないので、バルーンカテーテルを入れるのも最初は困難ですが、「押し込む」力をかける分だけ入りやすく、慣れるとどんどん入りやすくなっていくことが多いです。

★バルーン拡張法の方法

 いくつかの方法がありますが、私が普通行う方法は以下の2つ、特に①です。

①嚥下同期引き抜き法

・ 食道深くまでバルーンを飲み込ませ、介助者が注射器で、5mlの空気を入れてバルーンを膨らませる。

・ 徐々にカテーテルを引き抜いてきて、一番抵抗の大きいところで一休み。

・ ご本人に、「ごっくんして下さい」と嚥下を促して、それに合わせてカテーテルを引き抜く。

・ 通常、1セット5回~10回、やりやすさに応じて回数を決める。

・ 5mlのエアも、訓練の進行に伴って徐々に増やしていく。(10mlくらいまで)

◎「ごっくんして下さい」という指示がなかなか難しい方の場合、そのまま引き抜いてしまうことも多くあります。

②間欠的拡張法



・ ①と同様、バルーンカテーテルを飲み込んでもらいエアを入れ、抵抗の大きな所まで引き抜いてきて一休み。

・ その位置でいったんバルーンのエアを抜き、1-2cmカテーテルを抜いて、狭くなっているであろう個所までバルーンを持ってきた上で、再度バルーンのエアを入れる。入れたまま30秒持続する。

・ やはり、通常1セット5回~10回。

・ 要は、「一番開きにくいところ」で持続的に開く刺激を与える、という訓練法である。

 どちらの方法も、ご本人に指導をしながら、最終的には極力自分、ないし御家族でできるようにしていくことが望ましいです。ただ、②は自分だけでやることはかなり困難です。個人練習としては①ばかりやることになってもやむをえないと思います。

 経口で挿入することが望ましいのですが、これも、苦手な方はおられ、経鼻の方がやりやすいという方もおられます。ケースバイケースで。

(上図:食道の入口の狭くなったところで、風船を膨らませて広げてあげるイメージ)

★「一過性」の、「癒着」?を疑う症例。・・・

私自身は、病院勤務の際に、このバルーン拡張法をかなり経験しました。後に述べますが、「狭くなったところを物理的に広げる」ということですから、効果を期待するのはまあ当然ではあり、実際にかなりの確率で、飲み込めなかった方が飲み込めるようになることを経験しました。訓練、というよりは、治療、というイメージなのです。

私は、その当時脳梗塞の患者さんを主に担当しており、このバルーン法も、何度も繰返し行う方が多かったのですが、その他に、外科にて、腹部の手術後、であったり、気管切開・人工呼吸器管理後離脱したような方で、唾液が全て口腔内にあふれ、まったく嚥下できない、というような紹介を、数例経験しました。こうした症例では、1-2度だけバルーン拡張法を行っただけで、すっきり嚥下可能となる場合がありました。

しばらくの絶食の間に、食道の入口の筋が硬くなってしまった(痙縮・拘縮)か、あるいは、一時的に「癒着」のような状態になっていたのかもしれません。急性期病院ではこうした症例に巡り合う場合もあります。

頸部表面からの咽喉頭筋電気刺激

 日本に紹介されてきてから、まだ歴史の浅い訓練方法です。読んで字の如く、「頸部表面から、のどの筋肉を電気で刺激してやる」という方法です。

 私が最初にこの方法に出会ったのは、以下に示しますが、Intelect という米国の会社の、「Vital Stim」という治療器械が日本に紹介されたときでした。日本では、Inter Rehaという会社が輸入元になっており、その説明会を東京に聞きに行き、即、当時勤務していた総合病院に頼み込んで購入してもらっちゃいました。700人近く入院している総合病院で、リハビリを担当している医者は私一人で、嚥下障害に関しては、様々な科にかなり潜在患者がいることがわかってきたところで、とにかく、少しでも嚥下障害に有効かつ効率的な方法を、と情報収集していたところでした。2008-2009年ごろだったと記憶しています。

★Vital Stim 療法

 ひとまず、この器械についての解説からそのまま引用しますが・・・

・ 神経筋電気刺激により、嚥下を再教育する。

・ 嚥下障害治療に安全かつ有効として、2001年にFDA(米国食品医薬品局)より承認された器具と治療法

重い嚥下障害の患者について、電気刺激により完全に正常な嚥下機能に回復した率は38.3%であるが、アイスマッサージでは0%である。

とのことです。

 ここでも、アイスマッサージとの比較が出されており、当時から、アイスマッサージが古典的で有名な訓練方法であった、と同時に、疑問の出されていた訓練法であったことが伺われます。

 下左図のような本体で、下右図のように、患者ののどに電極を貼って、低周波の電流を流す、という器械です。

 当時購入価格で、200万円~もした器械で、詳しくはより色々な面白い機能がついているのですが、ここではこれ以上の説明は控えます。興味のある方は、Vital Stimで検索してみてください。



★運用方法(私の経験)

 上記のように、実際にはこの器械は色々な使い方があるのですが、私自身は、総合病院では主に、「廃用性の嚥下障害の予防」の目的で使うことが多かったです。

・ 外科系を中心とした急性期病棟やICUで、一定以上の期間(手術後など)絶食となる患者様(人工呼吸器装着中、など含む)に対して、廃用性の嚥下障害を予防する目的での使用。

・ 球麻痺・仮性球麻痺など脳卒中を中心とした嚥下障害については、極力早期に回復期リハビリ病棟へ移り、他の訓練も併用しつつ、集中的に使用。

★ 某メーカーさんの、肩こり・腰痛等用の低周波治療器はどうだろうか・・・



さて、ここから先はややデリケートなお話になりますが・・・

実は、上記の器械があまりに高価であること、と、実際の使用方法としては(私自身は)廃用予防のために60分つけっぱなし、という患者さんが多かったことから、もっと安価ないわゆる「低周波治療器」(肩こりや腰痛などに対する治療器械)でも代用できるのではないか、とずっと考えておりました。

それで、今回、某メーカーさんが出している、肩こりや腰痛等用の低周波治療器(3000円~)を購入して、まずは内輪(自分自身や言語訓練士)ののどに装着して試しているところです。

実際には、上で「デリケートなお話」としたのは、こうした本来の用途とは別の使い方をする場合には、しかもこうして一般に公開するような場合には、安全性などの担保が十分とは言えないものですし、本来の治療器械であるVital Stimさん側からも、何らかのクレームがある可能性もあります。

しかし、そうした問題はいったん措くとして、こうした低周波治療器は、本来肩や腰など、身体各所の「凝り」「痛み」などに使用を勧められているものであり、強度の調整も可能なものですから、安全性は高いものと考えます。こうした応用使用については、もちろん、購入者の自己責任、ということにはなるでしょうが、ある程度は許容される範囲内か、とも考えています。

何より、ずっと嚥下障害に取り組んできた者としては、非常に便利な器械であることを実感しています。

この原稿を記載している現在、その某メーカーさんとも、この件に関して連絡をとっているところですが、初回のお返事としては、「首から下の治療器械として認可をされているものなので、首から上に使用する適応はありません」とのことでした。今後も、相談・連絡を続けて、大っぴらに使用可能となることを目指していきたいと考えてはいます。

食前体操



 食前体操には、これ、といった決定版はありません。

私の勝手な推測ですが、日本で、ここ20年ほどの間に飛躍的に増えた高齢者施設などの現場で、嚥下障害に対する対策として、「食事前の準備体操」、「リラクゼーション」を皆で一緒に行うことが推奨され、様々なバージョンが作られたものと思われます。

上に挙げた図は、私どもが、「いわき食介護研究会」として活動をしていた際に、創始者の市川文裕先生が作られたものです。下の表では、「食前体操」一般の、主な内容を言葉にして表しています。

 色々なバージョンがあるため、また、病院で訓練士が専門的に行うというよりは、施設などで各自が行う、という形で発展してきたため、「研究発表」「エビデンス」といったものとはそもそも馴染みにくいものでしょう。

 のちに触れますが、あまり堅苦しく考えずに、ラジオ体操のように、「準備体操」「リラグゼーション」として、多くの現場で採り入れられてよいものだ、と、単純に考えてよいと思っています。

 日本の現状を考えると、特に高齢者の場合では、嚥下(食事)や発声・発語の機会そのものが少ない、そのために、口や喉を実際に動かす・使う機会が少ない、したがって、しょっちゅう行わないことは下手になっていく・・・ということが、常に問題になっていくと思われます。ですから、理想的なことを言えば、大いにお喋りして、大いに笑って、大いに歌って、たまにはお花見などで大いに飲み食いし、といったことを繰り返していれば、いつでも口や頬やのどは潤って健康で、嚥下障害も遠ざかるかもしれません。

 食前体操、などは、その一助、として考えざるを得ないのかもしれません。







まとめ

 今回、あれこれの訓練方法について思いを巡らせている中で、私なりに頭の中で、「訓練」というものに対する考えを、下のようにまとめてみました。

・医学界では、「エビデンス」が大流行であるが、リハビリテーション部門、「訓練」という分野に関しては、「エビデンス」を出すことは甚だ難しい。

・「エビデンス」がないとしても、その有効性をあまり疑いようのないもの、として、以下のようなものが挙げられる(のではないだろうか)。

(1) 筋力トレーニング / 筋に対して負荷をかける訓練を続ければ、トータルとして「筋力」は上がる。(これについては、各筋線維の太さが増す、等のデータは示すことはできる)・・・ただし、筋力アップが、必ずしも、特定の動作・作業の「上達」を意味するとは限らない。

(2) 反復訓練 / 「動作」に対する訓練としては、その「動作」を繰返し行うことで、上達する。・・・練習しなければ、ピアノが上手に弾けるわけがない。

(3) リラグゼーション・ストレッチング・マッサージング / (区別せずに一緒くたにしてしまいましたが・・・)負荷をかけるだけではなく、弛緩させ、筋・関節をほぐし、疲労を取る、といった方向も同時に考える必要がある。

 もともと、我々の「行動」に対して、「訓練」と「効果」を評価することは甚だ難しい、ということは、冒頭に述べたとおりです。

 例えば、100m走(短距離走)、ということを考えてみましょう。この場合には、「効果」は、100m走の記録が良くなる、ということになります。

 (1)の筋力トレーニング、によって、走るという運動に必要な個々の筋肉を太くする、筋力を強くする、ことは可能でしょう。それによって、100m走の記録は、速くなることが推測はされます。

 (2)の反復訓練についても、異論はないものと思います。100m走が速くなるためには、100m走、あるいは、距離を変えたとしても、走る、という動作を実際に繰り返すことは必要でしょう。

 (3)については、一番評価は難しいかもしれませんが、少なくとも、反復訓練を延々と繰り返すだけでは疲労がたまり、記録は落ちていくでしょう。疲労をとり、「柔軟性」といったものに目を向けることも必要です。

 これらの3項目については、もちろん調べればそれなりの研究報告もあるでしょうが、おそらく「先験的に」、あるいは、「直感的に」といったレベルで、有効であることは受け入れられるのではないかと思います。100m18秒の記録であったおじさんが、毎日毎日100m走を5回ずつ行っていれば、おそらく、1週間後には17秒になることは、十分あるだろう、と誰もが思うでしょう。

 もちろん、実際には、トップレベルの話としては、問題はその先でしょう。17秒ではなく、12秒、10秒、9秒、までもっていくために、これらの訓練「以外に」何をすればよいのか。あるいは、その個人に合わせてどういう訓練を組むのがより有効か、どのような個人が100m走に向いているのか・・・。

 しかしここでは、そうした「高度」な話は措くとして、全ての人に関して、上の3つは、「一定の」効果が期待できるだろう、とは言ってもいいと思います。

 余談ですが、(1)と(2)に関しては、プロ野球の落合選手と清原選手のことを思い出します。(以下、私はお二人とも大好きで大変尊敬しておりますが、以降、「落合さん」「清原さん」と書かせて頂きます)

 お二人とも、プロ野球史に残る大バッター、と言ってよいでしょうが、その練習に対する考え方には大きな違いがあったように思います。

 落合さんが言ったことを正確に覚えているわけではなく、出典を調べることもする気はありませんが、落合さんの「態度」として、「バッティングが上手になりたければ、素振り・打撃練習をしろ」、「野球をするのに必要な筋肉は、野球をすることでしか鍛えられない」、というような意味のことを、聞いたか読んだかした覚えがあります。落合さんは、器械などを使ったいわゆる「筋力トレーニング」に対しては批判的だったように思います。

 それに対して、清原さんは、特に選手人生の後半に、筋力トレーニングに積極的に取り組んで、むきむきの体になった、と覚えています。アメリカ大リーグの桁外れのホームランバッターだったバリー・ボンズに憧れていた、とも言われているようです。

 もし本人が同じようにバットを振って、同じようにボールに当たった、とすれば、筋力トレーニングを積むことによって、それまではホームランにならなかった打球が、ホームランになる、ということは、当然ありうるだろう、と思います。要するに、飛距離を増す、ということは、筋力トレーニングによって期待できるのでしょう。実際、バリー・ボンズは、ステロイド疑惑も囁かれているわけですが、あの筋肉を手に入れてから、ホームラン数が飛躍的に増え、誰も到達できないレベルになってしまった、ことは事実です(もっとも、バリー・ボンズは、ステロイドを使わなくても、十分に大選手だった、という意見も根強くあります)。

 落合さんの言うことは、(2)反復練習、に近いイメージで、清原さんは(1)筋力トレーニングを優先した、ということなのでしょう。もちろん、反復練習イコール、バットを振ることに必要な筋力トレーニング、にもなってはいるわけですが。

 両者を単純に比較すると、落合さんの方が成績としては上、のような気もしますが、それは言わぬが花。高いレベルの話としては、それぞれの個性にあった訓練方法、ということもありましょうし、そもそもこうした比較は困難なのです。落合さんは三冠王3度で、清原さんは無冠の帝王、でしたが、飛距離だけを取り上げれば清原さんの方が上だったかも?何を成績の根拠にするか、も難しいのです。が、個人的には、落合さんの考え方の方が「好き」ではあります。

 とまあ、余談はこのくらいにして、嚥下障害に対する訓練、としてこれらを考えてみます。

 上に挙げた5つの訓練をそれぞれ見直してみましょう。

シャキア体操は、紛れもなく「筋力トレーニング」に属するでしょう。嚥下という動作に必要な、全ての筋肉を鍛えることは甚だ困難ですが、その一部の筋肉を鍛えることにはつながるでしょう。

バルーン法については、食道入口部を閉じている「輪状咽頭筋」を緩めるためのものです。この筋が硬く閉じてしまって、食道が開かないタイプの嚥下障害について、「必ず有効」とは言えないでしょうが、硬く閉じているものを物理的に押し開く、と考えれば、有効でないわけはない。「リラグゼーション」に属する、と言ってよいかと思います。

そもそも、食道の入口は普段閉じているわけですが、それが嚥下の際に開くメカニズムについては、①「外についている筋肉が収縮して、引っ張って開く」ことと、②「輪状咽頭筋が弛緩して入口が緩む」ということが同時に起こっているわけです。シャキア訓練によって①を、バルーン法によって②を狙っているわけですので、これらの訓練は表裏とも言えます。

咽喉頭筋電気刺激訓練については、これも既に述べたように、私自身のイメージとしては、急性期の疾患で、絶食を、すなわち、嚥下に必要な筋を使わない状態を強いられている間に、それらを少しでも休めず、刺激をしておく、という意味で、反復訓練であり、また、「肩こりをほぐす」というイメージからは、リラグゼーション・マッサージングでもあります。これまでSTや看護師が、苦労して用手的にマッサージングなどをしていたものを、器械の力を借りられるようになったことは、ひとまずは、単純に、長い時間、容易に行えるようになった、と理解してよいのではないでしょうか。

食前体操については、専門的訓練、ということからは一歩離れて、「準備体操」、「ストレッチング」、「リラグゼーション」として捕らえてよいと思います。

最後に、アイスマッサージ(咽頭冷却刺激)ですが、上述のとおり、効果についてはちょっと疑問か、と思われます。筋力訓練やリラグゼーションとも言い難い。強いて言えばやはり、マッサージの上で嚥下を行わせるわけですから、その限りにおいて、食事前の「準備体操」であったり、「反復訓練」と捕らえることはできなくはないでしょうが、多く解説されているような、「嚥下反射を誘発する」という効果は、少なくとも、長期的にはあまり期待できないように思います。

 最後に、あらためて落合さんの言を借りれば(と言っても、私が勝手に自分なりに翻訳している可能性大ですが)、「野球の筋肉は野球をすることによって鍛えられる」、とすれば、「嚥下が上手にしたければ、嚥下を繰り返すのが最善」ということになります。

 すなわち、食べ続けることが、上手に食べるための最善の訓練、ということでしょうか。

 リハビリテーションには、常に2つの側面があります。

  「できない」ことを、できるように、「訓練をする」という意味からは、できないことをさせる、一定の危険を伴う、という、本人にとって「苦痛」「危険」な側面(それが「快感」につながることももちろんあるのですが)。

 「どこまでができないか」を見定めた上で、無理をせず、危険は避け、安全なところで生活を設定する、という側面。

 ある意味では相反するこれら2つの側面を、上手に使い分けることはとても難しいことです。

 嚥下障害に関して言えば、「水ものを食べるとむせる」という患者さんに対して、①とろみをつけた水分からスタートして、少しずつとろみを薄くして、とろみをつけなくても水分が飲めるように訓練をしていく、という方向と、②水分にはとろみをつけて、水は飲まないようにする、あるいは、食べるのは危険だから胃ろうを作る、というような、2通りの方向性があります。

 もし、食べ続けたい、飲み続けたい、という、本人の意志・意欲がしっかりしているのであれば、①のように、食べ続ける、飲み続ける、ということが、結局最善の訓練方法ではあるのです。

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