• 皆川夏樹

室蘭登別食介護研究会 第19回研修会 (2017.10.4)

経管栄養患者の適切な塩分・水分量はどのくらいなのか

2017年10月4日(水)、第19回研修会では、9月に行われた日本摂食嚥下リハビリテーション学会に出した演題2題をもとに、報告を行いました。正直なところ、学会発表としてはまだまだこなれていない、不十分な内容でもあり、こちらは来年以降に向けてさらに研究を充実させていこうと考えておりますので、今回、このページでは、発表内容を一部借りながら、「何を問題としているのか」というところに力点をおいて、研修会の報告を書いてみようと思います。

★前置き

 今回、学会発表を行ったのは、室蘭太平洋病院の管理栄養士、村上翠さんで、演題は、「長期療養患者における、投与塩分量・投与水分量と体温・血圧・生理学・生化学的データとの関係について」というものです。

研究の発端 / 経管栄養・経腸栄養剤の進歩?

 私が今関わっている、室蘭太平洋病院、は、療養病棟を4つ、一般病棟を1つもつ、主として療養型の病院で、一部直接外来から入院する方もおられますが、基本的には、西胆振地域の急性期病院での治療を終えた患者さんが紹介の形で「転院」をしてくる病院です。急性期の治療を終えたけれども、自宅へ帰ることが難しい方の中には、口から食べることが(いろいろな理由で)難しくて、経管栄養(経鼻経管・胃ろう)を行っている患者さんが多数おられます。

 経管栄養の患者さんには、食事、として、「流動食」を管から入れることになりますが、昔は在宅などでは、家族が食べている食事をミキサーで流動食にして入れるなどしていましたが、今は製品として、色々な栄養素をもれなく充填した流動食が使われることがほとんどです。それでも少し前までは、紙パックなどに入った流動食を、別の袋などに移し替えて投与していたので、その同じ袋に、水分を補充したり、お茶を補充したり、といったこともある程度自由に行われていたのですが、最近では、製品そのものがパッキングされて、そのままチューブに接続してしまえばよいものが多く、他の「余計」なものを入れなくてもよい、という方向になっていることがほとんどになってきています。現場で流動食を入れる看護師さんだったり介護士さんだったり、にとっては、手間が省けて便利ですし、衛生的にも、余計な操作が減れば「清潔」と見なされ、こうした製品を使う傾向は広まる一方のようです。

 反面、私のように昔からこの分野に取り組んでいる、しかも、在宅医療を行っている人間にとっては、何だかさみしい感じもします。「食事」の幅がどんどん固定され、決まりきったもの以外はあげられなくなってしまう(実際には、他の物を投与してもよいのですが、とてもしにくいでしょうね)。上に書いたように、「大」昔は、在宅でも、家族が食べているものと同じものをミキサーにかけて投与していた。形は違えど、家族と同じものを食べ、同じ匂いの屁をし便をし、時によっては少しビールを入れたり焼酎を入れたり、といったことも行っていた。・・・そうした時代は遠く過ぎ去ってしまったのですね。先日若い研修医さんに、そんな時代のお話しをしてみましたが、不思議そうな顔をされるばかりで、おそらく「なんて非衛生的な・・・」と思われたのではないだろうか。ま、郷愁、なのかね。

 今回、村上栄養士さんと話をしている中で、こうした新しい、それだけ入れていればよい、という「経腸栄養剤/流動食」の、塩分含有量がとても低いことが話題になりました。塩分については、WHOをはじめ、各国の医学界は軒並み、「塩分を控えた方がよい」「塩分の摂り過ぎは高血圧につながる」として、減塩を進めていますが、果たして、低ければ低いほどいい、という種類のものなのか?そもそもどのくらい塩分をとったら高血圧になる、という基準はあるのか?あるいはまた、医者としてみると、高齢者の方は全体的に、血液検査上ナトリウムが低い傾向にあり、時に重篤な低ナトリウム血症を起こす方もいるようだが、・・・等々、以前から感じていた疑問をもつながり、今回、経管栄養の患者さんに、別途塩分を加えた場合、どれほど血圧に影響するのか、ということを中心に、調べてみることにしました。

塩分摂取の基準はどのくらい?経腸栄養剤の塩分はどのくらい?

 まず最初に、基本となる点ですが、塩分摂取の基準はどのくらいが良い、とされているのでしょうか?

 上述の通り、塩分の摂り過ぎは、高血圧を招く、として、世界的に減塩が勧められているようですが、実はそもそもこの部分にも反論は多くあります。つまり、塩を多く摂ったからといって、必ずしも高血圧になるわけではない、と言っている方もたくさんいるのです。実は私もかなり「疑っている」派、ではありますが、今日はこの点には深入りしないでおくことにします。

 ただ、ひとつだけ、のちの議論とも関連する点を挙げておけば、今日では、「食塩感受性高血圧」という概念が提唱され、かなり受け入れられてきています。これは、ごく単純な説明にとどめますが、もともと、食塩を摂取して血圧が上がるタイプの人(=食塩感受性が高い)と、食塩を摂取しても血圧が上がらないタイプの人がいて、人種的にも差はあるが、日本人は、食塩感受性の高い人は半分以下と見積もられているようです。要は、半数以上の人にとっては、食塩を過量に摂取しても血圧は上がらない、ということですし、裏を返せば、半数程度の人はやはり食塩を控えた方がよい、ということになります。人による、ということですね。

 さて、推奨されている塩分摂取の基準です。

 まず、厚生労働省『平成25年国民健康・栄養調査結果の概要』によれば、1日平均で、日本人男性は11.1g、女性は9.4gの食塩を摂っている、となっています。

これに基づいて、か、厚生労働省は、1日あたりの塩分摂取量の目標値を、男性8g、女性7g、と設定しています。

また、高血圧学会によれば、1日あたりの塩分摂取量の推奨値は、6g未満、とされています。

WHO(世界保健機関)では、1日の塩分量の目標値は、5g未満、としています。

というわけで、まあ、目標値、ですから、それぞれの国や地域の実情に応じて、適当に設定されているなあ、というのが感想ですかね。何gにしないと高血圧になる、という、明確な基準は特にないです。

一方、最低量は?というと、「日本人の食事摂取基準2015年版」によれば、推定平均必要量は、1日当たり1.5g、となっています。これも「推定」、です。そのくらいかな、というところ。塩分なんて、なくてもいい、というわけではもちろんないんでしょうね。

 さて、これらを踏まえて、主なメーカーさんの、経腸栄養剤に含まれる塩分量を調べてみたところ、1日当たり900Kcal投与するとしたとき、以下の表のようでした。

 TERUMOさんのところを色付けにしているのは、たまたま当院で使用しているものだから、なだけです。今は各メーカー様々に、水分量・塩分量をコントロールした製品を各種出しているので、塩分量にもかなり幅がありますが、一番多くても、厚生労働省の目標値を下回るようにはなっており、全体的にはかなり低い設定になっていることがわかります。

 この件に関して、いくつかのメーカーさんに問い合わせをしましたが、当然のことながら、「塩分濃度の高い製品を作っても、あとから低くする(各施設で塩分を抜き取る)ことはできないので、低めにしておいて、必要な方には塩分を加えてもらえれば」との返答でした。

 上述のように、こうした経腸栄養剤は、なるべく他の物を加えたりする手間を省く方向になっているので、実際にはこれらにさらに塩分を加える、というような煩雑なことは、あまりしたくない。各メーカーはどんどん細かく、塩分・水分量を調整した製品のバリエーションを出していく方向になっています。

 下の図は、明治さんの出しているメイバランスという製品の例です。ホームページからコピーしました。これらを上手に組み合わせれば、どんな患者さんにも対応可能、ということでしょうか。

塩分を増やした場合、血圧・血液データはどう変化したか。

さて、ここからが調査内容です。

細かい研究の方法・対象等は割愛します。大まかの方法としては、当院に入院している、長期経管栄養の患者さん、5人について、もともと1日当たり、3.06g~4.14gであった塩分量を、それぞれ、1日当たり3gずつ増やすことにしました。詳細は割愛しますが、もちろん主治医と相談し、現状の塩分量がかなり低いということを確認したうえで、のことです。増やす前後2か月間ずつの、血圧・体重・血液データを調べてみた結果を、以下に記します。

◎血圧の変化

左が収縮期血圧、右が拡張期血圧、それぞれ、塩分増量前後2か月間、連日測定していた血圧の平均値です。収縮期・拡張期とも、2番目(P-15)と5番目(P-46)の患者さんの血圧上昇が、有意、と見なされますが、他の3者では、有意とは言えませんが、むしろ血圧は低下の傾向を示しています。

血圧が上昇したお二人の方も、収縮期血圧で、100→105、や、102→108、といったレベルで、血圧高値として問題になるレベルではありませんでした。


◎体重の変化

 理屈を言えば、塩をたくさん摂取して血圧が上がる、ということは、塩のせいで血液が濃くなるので、血液を薄めようとして、血液量自体が増える(水分が増える)ことによる、と説明されます。限られた血管の中で、血液量が増えれば血圧が上がるわけです。しかし、血液量、というのは、客観的に調べることができないので、通常は「体重の変化」で推測をすることになります。

 今回、体重を毎日は測定しておらず、1か月に1回しか測定していなかったので、甚だ不確実な結果しか提示できませんが、5人の患者さんトータルにみて、塩分量増加ののち、体重の増加は明らかにはみられませんでした。前項で、血圧の上昇していたお二人の方に限ってみても、体重が明らかに増加したとは言えないようです。



◎血液データの変化

 採血データについては、その他色々比較はしているのですが、ここではナトリウム(Na)の値のみ示します。

 これも、有意差、とは言えず、ばらつきも大きいのですが、5人トータルで見るとグラフとしては、塩分付加(グラフ中、縦線の時点)後に、血中Na値は上昇の傾向を示しているようには見えます。

◎考察・・・

 僅か5人のデータのみなので、確実なことは何も言えませんが、思いつくままに書いてみますと、

(1) 塩分を付加したのち、血圧が上昇傾向を示した方が5人中2人、残りの3人は有意とは言えないが変化なし~低下、を示した。5人中2人、というのは、もしかすると、「塩分感受性高血圧」に相当するのかもしれない。

(2) 塩分付加前後で体重には変動はなく(循環血漿量には変動はなく)、血中Na濃度が上昇傾向を示した。ある程度の塩分付加では、濃度のみが高くなることで、循環血漿量には変動を来さないのではないか。

 もう少したくさんの方でデータをとってみたいところですが、なかなか、「倫理的な問題」とも言われかねず、難しいです。今回学会で発表したところ、やはり、経管栄養剤の塩分量が少ないことには、多くの栄養士さんたちが悩みに思っていることが伺え、多施設共同でも、こうしたデータを集めていけないか、今後の課題としたいと思います。

水分を増やしたら、熱は下がるか?

 もうひとつ、経管栄養の方で疑問なのは、水分量をどのくらいにしたらいいか、ということもあります。健康な状態であれば、「のどが渇いた」と自覚して、飲みたい量だけの水分を摂取する、ということで我々は生活しているわけですが、療養病棟に入院している経管栄養の方(だけではないですが)は、ほとんど、「のどが渇いた」などの訴えはできない方です。上述のように、経管栄養剤は、水分量もバリエーションはありますが、要は「これさえ入れておけばいい!」というタイプに流れていますので、介護者側も、あまりデリケートに水分を調整したり、ということはせず、一年中ただ同じ製品を流し続けるだけ、ということになりがちでしょう。

 今回、我々の病院では、たまたま栄養科の方で、経管栄養剤を「加水タイプ」のものに変更(栄養剤中の水分量が増えている)することになり、そのタイミングで、水分量が増える前後で、熱型や血液データに変化はないか、を調べてみました。

 こちらも詳細は省きますが、長期経管栄養の患者様15名について、平均すると、1日当たり136ml水分量を増やしました。

予測としては、全体に水分は絞り気味だったところに、少しでも水分が増えれば、熱も低下傾向になるのでは、と考えましたが、・・・。

◎熱の変化

 熱については、病院では患者さんの体温を毎日測定しているので、水分量を増やす前後、それぞれ3か月について、毎日の体温測定の平均を出して比較してみましたが、下図のように、15人の患者さんで、ほとんど変化はありませんでした。お一人だけ、むしろ1度以上体温が上がった方がいましたが、ちょうど具合が悪く、発熱が続いた方で、外れ値というべきでしょう。

◎血液データの変化

 やはり省略して、ここではBUN(尿素窒素)とクレアチニンのみ提示します。概ね、2週間ごとに採血検査を行っており、原則として、水分量を増やす前後各3か月、6回ずつの採血結果を平均したものです。この両者は、一般的に腎機能の検査、とされていますが、脱水の指標、としての側面もあり、BUN/クレアチニンの比が大きいほど、脱水の傾向が高いとされます。水分増量前後で、BUNの値は下がり、クレアチニンはほとんど変化はなく、脱水傾向はやや改善した、とみてもよいかと思われました(当然なのですが)。


まとめ

 というわけで、今回の「研究」としては、対象人数も少なかったり、きちんとコントロールされたものでもなく、結果、としてはきちんとアピールして出せるものではないことは確かです。

 私、皆川個人、ないし、「食介護研究会」の基本的なスタンス、としては、口から食べる食事、ということをぎりぎり大切にし、できれば、人生の最期まで、本人が望むものを、望むような形で、口から食べることを支援する、ということです。やむを得ず、経管栄養を選択しなければならない状況も、あることは否定できませんが、そうであっても、「食事」には、ご本人やご家族の、希望、幸福、楽しみ、といったものが、さらに言えば、「自由」というものがあってよいのではないか。きちんとパックされ、出来上がった製品を入れるだけ、という方向に流れていくことが、どうにも無念でならない、というのが、今回の研究の発端なのでした。「昔から、しょっぱいおかずの好きだった人だし、経管栄養だって、もう少し、塩っけを増やしてあげたっていいんじゃない?」「暑い時にはもう少し水分やお茶を増やしてあげたっていいんじゃない?」・・・という、経管栄養患者さんであっても、少しでも自由度があってもいいんじゃないか?その一つの表現として、今回の研究があったわけです。まあ、不十分な結果はそんなわけで、お許しください。

 できれば、症例数・患者数を増やして、塩と水分量の問題は、継続してみていけないか、と考えてはおります。経管栄養患者さんの多い病院や施設の方で、興味をお持ちの方、ご連絡をお待ちしています。

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