• 皆川夏樹

(咽頭部)電気刺激装置のその後  マッサージングの基本について

室蘭登別食介護研究会 第14回研修会 (2016.8.3)(咽頭部)電気刺激装置のその後 マッサージングの基本について 2016年8月3日(水)、第14回研修会では、私(皆川)が、病院勤務時代から嚥下障害に対するリハビリテーションの一つとして使用していた、咽頭部の電気刺激治療器のその後の経過について報告しました。以前私が使用していた器械は、かなり大型の高価なもので、訪問診療や施設などではおいそれと使えないものでした。近年、かなりコンパクトな、携帯型の器械が次々と出てきているのです。今回は、あらためて「咽頭部電気刺激」~マッサージングの有効性とその使用方法等について議論を深め、実物も用意して参加者の皆さんにも体験してもらいました。あわせて、用手的なマッサージの方法について、日本工学院柔道整復科で講師をされています冨永史人先生に講習をお願いしました。 電気治療の目的「電気治療」~多くの場合、「低周波治療」と言われていることが多いでしょうか、こうした治療は、多くの方が経験されていることと思います。腰痛や肩痛、などで、整形外科医院などに通って、「電気を当ててもらっている」という、あれ、です。電気治療は、病院で働いている我々医者や医療従事者にとっては、非常に身近なものでした。特に私は、リハビリテーションの分野で仕事をすることが多かったので、多くの電気治療器に触れてきました。こうした「電気治療」の目的は一体何でしょうか? 一般の方々向けにごく簡単に言うと、「筋肉を動かすこと」です。 我々の体の筋肉は、多くの場合、脳から出発した長い「神経」の先に接続しています。この場合、神経はよく、「電線」に譬えられます。脳からの指令、というスイッチが入ると、神経、という電線をたどって電気信号が送られて、筋肉に刺激が送られた際に、筋肉は運動する、というわけです。

上の図のように、たとえ神経という電線が途中で切れてしまっていたとしても、つながっている部分、切れていない部分の神経に直接電気刺激を与えることによって、筋肉を動かすことは可能なわけです。神経が、体の表面に近いところを走っている場合には、体表面に直接電極を当てて刺激することが可能ですし、あるいは、直接筋肉に刺激を与えることもできます。深いところにある神経を刺激しようとすれば、電極を体に「刺す」ことも必要な場合もありますが、これは病院で行われるようなことなのでここでは割愛します。では、動かない筋肉を無理やり動かすことで、何が有益なのでしょうか?これもまた大雑把に、現在一般に利用されている目的を言うなら、(1)痛みを和らげるため、と、(2)訓練(リハビリテーション)、となるでしょうか。それぞれについて、少し詳しく説明しておきます。 (1)痛みを和らげるため、というのが、先に上げましたが、一般的に整形外科などで使われている治療器でしょう。腰が痛い、肩がこる、などの理由で、電気を当てる、というものですね。・・・絶対、というわけではないのですが、一般的な「腰痛」「肩こり」のような場合、あまり重大な背景がある、ということではなく、「運動不足」のため、要は普段からその筋肉をあまり使っていないため、ということが多くあります。筋肉を動かしていない→筋肉は縮こまって固くなる→血流も悪くなる→・・・理屈を言えば、血液は、動きのあるところ、活動しているところに流れてきます。血管自体が、動かされることによって拡張・収縮して、ポンプのように血液を流す、という面もありますし、そもそも直感的なレベルで、動きもしないところに血液を送る必要がない。そうすれば、栄養も、酸素も送られてこないし、老廃物も処理されず、痛みをおこす物質も排除されていかない、・・・ということになります。 東洋医学では、「血液」を流しているのは、「気」である、と説明されますが、その、気、が流れなくなると凝り固まってしまう。それが実際に体を触った時に感じられる、「凝り」であり、これは、鍼や灸によって刺激を入れてやることによって、気の流れがよくなり、解消されると言われます。同様に、マッサージによって、凝りを「ほぐす」ことも可能と考えられていますし、その延長線上に、電気刺激もあります。 (2)訓練(リハビリテーション)として、電気治療器を使う場合もあります。いくつか例を挙げてみましょう。 ★脳梗塞などの場合、手足が麻痺をすることがあります。重度の場合、麻痺はずっと残りますが、軽度の場合には、2-3か月の経過の中で、脳のむくみも引いてきて、それとともに麻痺が改善して、手足の動きが出てくる場合もあります。しかし、その2-3か月の間、全く筋肉が動かない状態が続いていれば、筋肉はやせ細って衰えてしまったり、硬くこわばってしまい、いざ麻痺は直ってきたけれど、とても実用的な状態ではない、ということになります。ですから、この、動かない2-3か月の間、何とか動かし続けて、筋肉を弱らせないようにしておくことが必要なのです。そのために、訓練士が手を貸してでも、患者さんを立たせて、足に体重をかけて、筋肉を無理矢理でも動かしたり、負荷をかけたり、ということをし続ける。それと同様に、電気刺激を使うことによって、動かない筋肉を動かし続けておく、という方法が有効な場合があるのです。 ★残念ながら、神経が完全に切れてしまって、回復しない、という場合でも、電気刺激によって筋肉を動かすことが可能ですので、これを利用した「ロボット」の開発も進んでいます。これは、「訓練」というよりは、「実用」をめざしたものです。スイッチのON/OFFの方法を工夫することによって、たとえば実際の歩行の際に必要な筋肉の動きを、電気刺激によって再現する、というようなことを狙います。 ★あまり気にしてみてはいなかったのですが、テレビショッピング、などで盛んに宣伝されている、「運動しなくてもムキムキの腹筋がつく!」というマシーン。あれって、要は、腹筋の表面に電気刺激を送って、寝っ転がったままでも腹筋を鍛える、という効果を狙ってる・・・ということに最近気が付きました。ああ、こう来たか・・・という感じです。有効?なんだろうかねえ。・・・リハビリテーションの現場で、電気刺激治療に携わってきた身からすれば、電気刺激だけであんなに腹筋がつくのであれば、病後に歩けなくなるような方はいなくなるだろうなあ。足の筋肉だってむきむきになれるわけだし。広告写真はやり過ぎだろう、とは思うけど。これは、「訓練」というよりは、「美容」目的でしょうか。

・・・・・というわけで、電気刺激によって、筋肉を動かしてやる、ということで、様々な効果が期待できる、ということです。基本的には、ほったらかしていてもなかなか動いてくれない筋肉を、外部からの力で動かす、ということですから、特に、痛みをとる、という効果に関しては、マッサージ、などとも通じる、というか、同様な効果を狙っている、ということになります。 それぞれ狙っている効果によって、周波数や、干渉波というやや特殊な電流を用いる、など、様々な応用がありますが、ここでは割愛します。 摂食嚥下障害への応用前項で記したとおり、電気刺激による治療、というのは、脳~神経~筋肉、の疾患や障害に対するリハビリテーションとして、以前から知られたものでした。では、これを摂食嚥下障害に対して応用できないものか、という考えが広まったのは、比較的近年のことですが、学会などでも、その有効性は続々と報告されています。現在、「摂食嚥下障害」という言葉は非常に広い意味を含んでおり、すべての摂食嚥下障害に対して、電気治療が有効、とは断言できませんが、少なくとも、「有効な場合はかなりある」と言ってよいと思います。要は、摂食・嚥下、をするときに使っている筋肉を、なるべく動かしておく、ということです。我々が摂食・嚥下をするときに使う筋肉、というのは、専門的にはいくらでも細かく筋肉の名前を挙げていくこともできますが、大雑把には、「顔からのどのあたりにかけての筋肉」です。これらの筋肉は、どんな時に使われているか、と言うと、もちろん、ものを食べたり飲んだりするときに使われるわけですが、その他、しゃべったり、歌ったり、大声を出したり、笑ったり、・・・ということでも使われます。裏を返せば、「食べたり飲んだり、しゃべったり歌ったり笑ったり」ということをしなくなっていけば、どんどん筋肉はやせ細り、硬く縮こまって、どんどん食べられなくなる~摂食嚥下障害が進行する、ということになります。 私は、ずっと摂食嚥下障害の問題に取り組んできましたが、昨今この問題は、特定の疾患や障害によるもの、というよりも、「高齢者」の問題という側面の方が強くなっています。脳梗塞を起こして、のどの筋肉が麻痺をしたため、というような摂食嚥下障害ではなく、高齢になって、あんまり喋らないしあんまり食べないから嚥下障害になる。・・・一人暮らしのお年寄りが、誰ともしゃべることなく、一度も笑うこともなく、一日を終える。食べるのも面倒なので、夕食一食だけ、それも、噛まなくてもよいような豆腐だの卵焼きだのばかり食べる。・・・これでは、摂食嚥下に必要な筋肉はどんどん衰えて行ってしまって当然です。リハビリテーションの原則は、「やらないことはできなくなる」「使わない機能は衰える」です。食べない、噛まない、しゃべらない、人が、どんどん、食べられなく、噛めなく、しゃべれなくなっていくことは、当たり前なのです。これは、高齢者だけの問題ではないでしょうが、高齢者にかなり共通の問題であることは間違いないでしょう。もちろん、そうした高齢者の生活環境の問題だけというわけではありません。病院で働いていると、何らかの病気で入院してきた方、は、似たような環境を強いられることになります。絶食・点滴・面会はほとんど来ない・しゃべる機会はほとんどない。場合によっては、気管内挿管・人工呼吸器。こうした状態が2-3週間も続けば、これまた当然、摂食嚥下障害をきたすわけです。 このように、使わないことによって筋肉や、その他臓器などが衰えていくことを、広く「廃用」と呼んでいますが、こうした廃用を少しでも防ぐために、電気刺激は有効(なこともある)だろう、と考えられるわけです。

携帯型の電気刺激装置の登場 摂食嚥下障害に対する電気刺激が実用的になったのは、私の知る限り、右の写真の、「バイタルスティム」という器械がアメリカから入ってきてからのことです。紹介によれば、この器械がアメリカで承認を受けたのは2001年のことで、日本に入ってきたのは2009年頃だったと思います。私は真っ先にとびついて、当時勤務していた病院に頼み込んで購入してもらいました。 この器械については、200万円近くしたと思いますが、それなりに色々と、専門家心をくすぐる機能が付いていて、楽しかったのですが、現実的には、のどのあたりに電極を貼り付けて、単純に電気刺激を行う、という用途が主になってしまったこともあり、そうすると、200万円はあまりに高い。それに、何せかさばる、持ち運びが大変である。・・・世話になったのは事実なのですが、その後病院をやめて自分で往診クリニックを開業するようになってからは、とても使えるものではなくなってしまったわけでした。  開業してから、在宅で使えるような、簡易的な電気刺激装置はないか、と探していた私が目を付けたのは、下右の、オムロンの「エレパルス」でした。これはもう、本当にすぐれものだと思います。もともと、「肩こりや腰痛に対して」、と謳われている器械なのですが、部位に合わせたモードや、「じっくりコース」「すっきりコース」、「たたく」「もむ」「さする」などのバリエーションも楽しめます。やや細かい話になりますが、体に貼る「パッド」も安価で、何度も繰り返し使える、というのもうれしい。こんな高機能の器械が5000円以下で手に入る、というのは、さすがオムロン、日本の技術力の高さをあらためて実感させて頂きました。 あまりに嬉しかったので、これは正式にオムロンさんに、嚥下障害に対する治療器械として明記してくれないものか、と何度か問い合わせをしたのですが、ほぼナシのつぶて。・・・と、この辺りまでの経緯については、本稿の、「訓練について(第4回研修会報告)」にも記してあります。
昨年2015年に、摂食嚥下リハビリテーション学会が京都で行われました。学会への参加を機に、最終的に私は、京都のオムロン本社までアポを取って出向いて、この件について交渉をしました。摂食嚥下障害、という、多くの高齢者にとって重大な問題に、(咽頭部)電気刺激が有効であること。その裏付けとしての、「バイタルスティム」という先行の器械のこと、「エレパルス」は摂食嚥下障害に対しても有効に使える可能性が高いこと、・・・等々を担当の方に訴え、エレパルスを、嚥下障害の分野に登場させてもらうようお願いを下のですが、・・・・・・残念ながら、担当の方から色よい返事はもらえませんでした。結局、オムロンさんとしては、日本の場合、薬事法、とか、PL法、とかの法律があり、このエレパルスに関しては、首より下に使う、ということでしか認可をされていない、とのことだそうです。そして、この認可が、大変に骨の折れる仕事だ、ということのようです。こうした法律は、もし、この製品を、認可されている以外の方法で使って事故が起こった場合に、企業側には責任が及ばない、ということを保証するものなわけですから、逆に、嚥下障害に(のどの部位に)エレパルスを使用しても安全である、ということを、企業側としては、十分なデータをとらなければいけないのでしょう。ましてや、医療用としての器械ですから、有効であることについてのデータも必要になるかもしれません。・・・というわけで、残念ながら、企業としてのオムロンさんは、エレパルスを嚥下障害の治療器械として正式に認可してもらう方向には、興味をお持ちではないようでした。あとは、それぞれの方が、自己責任として使ってみるかどうか、ということになるかと思います。実際私はここ数年、今は私の父にも、このエレパルスを使い続けていますが、非常に使い勝手は良好です。ただし、もし事故が起こったとしても、オムロンさんも、私も、責任をとることはできませんので、ご了解ください。  さて、京都のオムロン本社をお訪ねしたまさにその際に開かれていた、京都国際会議場での、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の商品展示ブースで、遂に、「本物」の、携帯型電気刺激治療器械を見つけてしまいました。下の写真、二つです。上が、先に紹介した「バイタルスティム」の携帯版、下が、「ジェントルスティム」というやはりアメリカ製の器械です。今回の定例研修会では、残念ながら、バイタルスティムの方のみ、実物をお借りしてデモをすることができませんでした。 バイタルスティムの方は、もともとの大型の器械にはついていた、様々な機能は全部取っ払って、ごく単純な低周波刺激の器械になってしまっていました。ジェントルスティムは、案内の文書をみる限り、先行のバイタルスティムとは違って、「干渉波」を用いている、ということを前面に出しているようで、その有効性についての論文、研究発表についても、メーカーさんから送って頂きました。(ここではその違いについては深く触れません) 私にとっては、待望の製品だったのですが、惜しむらくは、高い・・・。医療器械はなかなか「値段」を明らかにしにくいところもあるのですが、どちらもとにかく数十万円の桁です。20万円~はするようです。エレパルスは3000-4000円台、というところですから、いずれにしても二桁違う。これだけ値段が高いのは、外国製、ということもあるでしょうし、上に挙げたように、治療器械として様々な法律を通したり、また、特許の問題なども絡んでいるのでは、と推測しますが、やはり、病院を離れた、施設や在宅などで気軽に使えるもの、というわけにはいかないようです。
まとめ摂食嚥下障害に対する、咽頭部電気刺激、という治療(リハビリテーション)について、また、そのために使用される装置について報告しました。有効性、については、今後も様々なバリエーションについて、様々な報告がなされていくことでしょうが、基本的には、リハビリテーションの原則、「使われていない筋肉をなるべく動かす」ことをめざした治療器具ですので、一定の有効性は期待できるものと思います。治療器械としては、ようやく携帯用の小型の器械が出てきて、施設や在宅でも(比較的)気軽に使える可能性が広がってきましたが、専用の「医療用」器械はまだまだ高価ではあります。オムロンエレパルスをはじめとして、肩こり・腰痛用を謳った器械は、比較的安価(数千円)で手に入り、使い勝手もよく、機能的に大きな遜色はない(むしろ高機能な面もある)ものと考えていますが、使用目的としては「摂食嚥下障害」は明記されてはおらず、事故が起きた際にメーカー(や私)は責任をとってはくれませんので、その点はご了承ください。また、「腹筋むきむき」系の器械も次々出ており、基本的な構造・機能は変わるところがありませんので、興味のある方はお試しいただいても、と思いますが、エレパルス同様、事故が起きた際は自己責任ということで。  まとめとして、使用に当たっての注意事項、禁忌事項について触れておきます。
 上に挙げた図は、「バイタルスティム」の説明会で案内されたものです。 使ってはいけない、禁忌、としては、「活動期腫瘍」「感染」「頸動脈同」とありますが、要は、熱が出ている時や癌の患者さんには使わないように、重態の方には使わないように、という一般的な注意、と、もう一つ、頸動脈洞、とありますが、詳しい説明は省きますが、首の側面には使わない、と理解しておいた方が良いと思います。
 上の図も同じく、「バイタルスティム」の説明会からのものですが、基本的には、顎の下、首の前面に電極を貼って使用します。ごっくん、と飲みこむ時、男性であれば、のどぼとけがぐっと上がります。その周辺に、嚥下に関連する筋がある、ということですので、そこを標的にします。あまり首の側面に行ってしまうと、頸動脈が走っており、不用意に強い刺激を入れてはいけないので、側面には電極を貼らないように。 また、「注意」として、ペースメーカーなどの電子部品を体に埋め込んでいたり、使っていたりする方が挙げられています。どうやらほぼ問題はないようなのですが、事故を避ける、という観点から言えば、自宅で一般の方が使おうと思えば、避けておく方が無難でしょう。同様に、てんかんを持っている患者さんも、避けておく方が良いかもしれません。  最後に。 ・・・今回だけではなく、いつも私が思っていることではありますが、本来私は、こうした器械を使うことは、そんなに『好き』ではありません。あくまで、個人的な『好き・嫌い』の問題ではあり、しつこいですが、摂食嚥下障害に対する「効果」としては、こうした器械に大いに期待しているし、一般の方も使うべき、とは思っています。 私自身は、この器械を、大きな病院で働いている時に、主に、脳梗塞などを起こして急性期の、集中治療室に入って、絶食・点滴・人工呼吸器使用・気管切開、などの患者さんに多く使っていました。そうした患者さんは、必然的に、まだ喋れない、唾液すら飲みこめない、口を動かすことができない、という状態を強いられているから、せめてこうした器械で、筋が衰えることのないように、ということを考えた為です。 しかし、既に本文中で触れましたが、現実に今、「摂食嚥下障害」は、こうした大きな病院の、特殊な病気の方に起こる問題、というよりも、一般の、自宅、や、施設、や、慢性期の病院にいる、「虚弱な高齢者」の問題、になってしまっています。ややもすると、一日全く喋らない、笑うことなど数日していない。あるいは、胃ろうを入れてしまってからは食べないので口を動かすことはまったくない、・・・こうした方は、唾液を飲みこむことすら、一日にほんの数回位しかしていないことも分かってきました。・・・では、こうした虚弱な高齢者に、この電気刺激器械を使ってみては!! これらの方々は、摂食嚥下に関わる筋が衰える、としても、当たり前、なのです。だから、介護保険では、必死になって、自宅で独りでいるような高齢者をデイサービスなどに引っ張り出して、みんなでお喋りをしよう、カラオケで歌おう、食前体操をしよう、と、少しでも、自然な形で、口を、のどを、身体を動かすように、となっている。年をとって、段々あちこちが「衰える」のはやむを得ない、としても、本来「食べる」という、生物の根幹に関わる機能は、そんなにおいそれと衰えるものではない。・・・当たり前に、毎日食べて、飲んで、喋って、歌って、笑っていれば、そうした環境が整っていれば、食べ続けることはできる筈なのです。 ですから、本音を言えば、こうした器械を使うのは、医者としては、急性期病院のような、特殊な環境、特殊な疾患で、限られた期間に使用するものだ、と思いたい、のですが、しかし、こうでもしなければ、口の周囲を動かす機会がまったくない、という方が、どうしてもいるのです。そして、度々肺炎になっては、病院と、在宅・施設をしょっちゅう往復することになる。 たとえば高齢者施設で、ベッド上寝たきりの方に、午前中30分ずつこうした器械を介護職の方が、次々取り付けて回る、というような光景を想像すると、何か痛ましいような気持ちにさえなります。私たちは、昔は経鼻経管、その後は胃ろう、同じような光景を見てきました。ずらっと並んだベッド、流動食を入れたパックをどさっとまとめて運んで、次々高齢者に「装着」していく。・・・これが、「食事」、の場面なのです。  できれば、使わないに越したことはない、使わずに済ませたい、というような医療器械がたくさんあります。しかし、使わざるを得ない、使わずにはいられない、というのが、高齢者医療・介護の現場のジレンマである、と思います。

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